小学4年~5年生で、文章題が苦手な子についてのお話です。
例えばこのような問題
問題:あるクラスには生徒が20人います。このクラスの生徒にリンゴを1人5個ずつ配るには、何個のリンゴが必要ですか。
このような問題を前にした際に、完全にフリーズしてしまう子がいます。
本当に固まってしまって、何も考えられなくなっています。
このような場合、保護者や一般的な算数指導者など、普通の大人から見ると、まるでやる気がないように見えてしまうのです。
やる気がないのか、読解力が著しく低いのか。
こんな問題も分からないなんて……と悩まれて相談を受けることは少なくありません。
大人からすると、この文章の意味が分からない子の気持ちが理解できないのだと思います。
簡単で、よく読めばわかるはずなのに、なぜこの子は分からないのだろうか。いや、分かろうとしないのだろうか……
などと考えてしまったら不幸の始まりです。
この問題でフリーズしてしまう子の気持ちを大人が疑似体験するための例題をご用意しました。
下の問題を読んでみてください。
答えが存在し、解くことは可能な問題です。
問題:以下の命題を証明してください。
単連結な3次元閉多様体は3次元球面 S3 に同相である
いかがでしょうか?ポアンカレ予想と呼ばれる問題です。(現在は既にペレルマンによって証明されているので定理となっています)
まず何を言っているのか全く分かりません。
安心してください。算田もまったく理解できません。
証明はおろか、何が問題とされているのかすら分かりません。
おちついて整理してみましょう。分からない部分を青色、分かる部分を赤色で塗り分けてみます。
単連結な3次元閉多様体は3次元球面 S3 に同相である
分かる単語が助詞と助動詞しかない!!!
絶望です。使用されている名詞は全て分かりません。
そうだ、分からないときは先生に質問しましょう。
「先生!わかりません!」
「そうだね。それじゃぁ、まず、3次元球面に同相な3次元多様体と、同相じゃない3次元多様体を考えてみようか。何か思いつくことがあったら言ってごらん?」
「………」
「どうしたんだ! 黙ってちゃ何も分からないだろ! なんでもいいから言ってみなさい。じゃあ何か、同相な多様体の例を挙げてごらん。なんでもいいから、ほら!」
このように言われている状況を想像してください。もう泣きたくなります。
問題の意味は分からないし、先生が何を言っているのかも全く分かりません。
先生は何度か言い換えて説明しなおしてくれるけれども、それでもやっぱり何を言っているのか分からない。
勉強が嫌いになるルートへ一直線です。
これはたとえ話ですが、文章題の意味が全く理解できない子は、これと似たような状況に陥っているのではないかと思うのです。
小学校低学年で受験勉強をしている子にとって、塾のテキストの文章題が、私たちにとってのポアンカレ予想と同じくらいの難度で意味不明に感じられている可能性があります。
①分からない単語がある
②主語述語・修飾語の関係性が分からない
上の2つの可能性を、勉強のできる指導者ほど見逃しやすいのではないかと危惧しています。
特に算数の先生の場合、言葉や文章を読めない子がいるということがあまり想定できていない先生が数多くいます。
大人にとってどんなに簡単に思える問題であったとしても、それが分からないという子を怒ってはいけないと思います。
私も以前は怒りそうになることがありました。
「こんな簡単な問題で答えられないなんて、やる気がないからに違いない」と短絡的に考えてしまったこともあります。
しかしよくよく生徒の話を聞いてみると、本当に分からなくて困っていた場合がほとんどでした。
指導者目線から「やる気がない」と映る状況の多くは、生徒は本当に困っていたのです。
これに気づいたときは本当に恐ろしい思いでした。いままでどれだけ生徒のSOSを見逃していたのか……
それ以降はどんなに簡単な問題で生徒の手が止まっていても、やる気がないと決めつけることは、しないようにしました。
分からなくなっている原因があるはずで、それを探って対処してあげると、ちゃんと読めて解けるようになります。
「なんだ簡単じゃん!」と言ってくれた時は講師冥利に尽きる思いです。
ご家庭で勉強を教える際のお子様への接し方の面で、頭の片隅に覚えておいていただきたい内容でしたので、こうして記事にしてみました。
参考になれば幸いです。