4年生で消去算と言う単元を学習します。
そこに登場する「代入」という考え方についてお話していきます。
生徒さんが「消去算、出来る問題もあるけれどもどうしてもできない問題があるんです」と言う場合、算数指導者であれば、この代入が苦手なのではないかとまず疑うところです。
なぜ子供たちは「代入」を苦手としてしまうのか?
代入を克服するためにはどう練習すれば良いのか?
この二つをテーマにお話していきます。
目次
消去算には二種類の解き方がある
消去算には大きく分けて二つの解き方があります。
便宜上名前を付けておきましょう。「そろえて消す」と「代入」とします。
(数学で言う所の「加減法」と「代入法」です。)
一つずつ説明します。
「加減法」は次のような解法です。
問題
りんご3個とみかん2個を買うと400円です。
りんご2個とみかん5個を買うと450円です。
みかんは1個いくらですか?
代表的な解法は次のようになります。
上の画像のように、式を2倍、3倍することでリンゴの個数をそろえて解く方法が一般的です。
これを「そろえて消す」解き方と呼ぶことにしましょう。
塾で消去算を習うを意志版最初に教わる解法です。
比較的得意としているお子様が多い印象です。
一方で、次のような問題も存在します。
こちらは代入法を使って解くのが一般的な問題です。
問題
りんご3個とみかん5個買うと550円です。
りんご1個の値段はみかん2個の値段と同じです。
みかんは1個いくらですか?
この問題の代表的な解き方は次のようになります。
このように、「りんご1個」の代わりに「みかん2個」を入れ込んで解いていきます。
これを代入と呼びます。
このように消去算には大きく分けて二つの解法があります。
この二つの解法のうち「代入」の方を小学生は苦手とする傾向が強いです。
なぜでしょうか?
次の項目でその理由を考察していきます。
「代入」という動作・概念自体に初めて接する
消去算を初めて習う小学生にとって「代入」という動作・概念は人生で初めて接する考え方になります。
日常生活で「代入」に近い状況は何かあるでしょうか。
あまり思いつきませんね。
昔でしたら「チョコボールの金のエンゼルは銀のエンゼル5枚分の価値がある」などでしょうか。
テレビゲームなどに親しんだ子にとっては「木を3個持っていくと鉄と交換してもらえる」のような経験があるかもしれませんが……
なんにせよ、小学4年生にとって「代わりに入れる」という動作はほとんど初見となります。
初見の動作を、紙の上の問題と数字のみで理解するのは非常に困難です。
子供が理解しやすいものは「実際に経験したこと」と「目に見える現象」です。
紙の上で繰り広げられる数字の操作を実感を伴って理解することは難しい年齢です。
これを大人の数学の感覚で指導してしまうと大失敗します。
では、どのように指導すれば良いのでしょうか?
子供に新しい概念を理解してもらうためにはどのような方法での指導が効果的なのでしょうか?
出来るだけ言葉と論理を使わない
既に知っている類似概念と結びつける
子供に新しい概念を理解してもらう方法として有効な方法一つ目は「既に知っている類似概念と結びつける」という事です。
「金のエンゼル1枚は銀のエンゼル5枚と同じ価値」のような事を実生活で知っている子には、この知識と結びつけることで理解を促すことが出来ます。
今の子はチョコボールなど知らないでしょうから、ゲームでもアニメでも、何かでこの「〇が~個と△が~個で交換できる」という状況であればなんでもいいです。
(どうぶつの森というゲームで似たような状況があると言ってくれた子も居ました。ゲームではこうした交換システムが採用されているようです)
ただしこの方法は、類似の状況を知っている子にしか使えません。
経験に乏しく、こうした状況を全く知らない子には使えない方法になります。
そうしたお子様には、次の方法で少しずつ理解を形成していきます。
簡単な問題を解きながら自然と身に付ける
小学4年生・5年生で算数が苦手な子に向けて、新しい考え方を言葉で説明しようとしても難しいです。
いっそ言葉による説明は放棄し、問題を解きながら自然と身に付ける方法が有効です。
といっても、一般的な問題集にある問題をそのまま解かせたのでは効果はありません。
その子が考え方を理解するために専用の問題を講師が作って誘導する必要があります。
例えば次のような感じです。
ステップ1 極端な数で自然と代入したくなるようにする
ステップ1
りんご99個とみかん2個で3000円です。
りんご99個の値段はみかん1個の値段と同じです。
みかんは何円ですか?
ここまで極端な数にすれば「あ!みかん3個分じゃん!」と気づけるでしょう。
これが代入の第一歩です。
代入を理解するための下地がその子の中に作られた状態です。
ステップ2 〇倍したくなる数にする
ステップ2
りんご39個とみかん2個で3000円です。
りんご13個の値段はみかん1個と同じです。
みかんは何円ですか?
これも、39と13という特徴的な数字を用いることで「あ!3倍だ!」と気づきやすくしています。
「りんご39個ってみかん3個分じゃーん!」という気づきを誘います。
ステップ2.5 普通の数で練習
ステップ2.5
りんご6個とみかん4個で520円です。
りんご2個の値段はみかん3個と同じです。
みかん1個は何円ですか?
実際の問題でありそうな、普通の数にして練習します。
ステップ2で学習した考え方をさらに拡張していきます。
もしこの問題が解けなかったとしても大丈夫です。
先ほどの39個と13個の時に一度同様の考え方を経験していますので、指導・解説がやりやすくなっています。
いきなりこの問題を解いて解説するのと比べて、ステップ2を経由したほうが理解が簡単になっているのです。
つまり、解き方を言葉で説明してもらわなくても良いのです。
ステップ2の問題を示して「”こう”やるんだよ!ここのこの感じで解くんだよ!」と言えるのです。
子供への指導では、いかにこの「これ」や「こうやる」といった指示語が使える状況に持ち込むかが大切です。
論理を全て言葉で説明されても理解するのは大変です。
簡単な状況で一度理解しておくことで「あれ!さっきやったあれだよ!」とお互いの共通認識を基盤として、そこから段々と理解を強固にしていくような方法を採ります。
ステップ2.5の辺りで「これが代入だよ」というように、代入という言葉正確に使えるように教えていきます。
動作に名前を付けて覚えることは大切です。
一連の動作に「代入」という名前が付くことで一気に覚えやすくなります。
人間は名前があるモノを優先して覚えるように出来ているのでしょう。
ステップ3 〇倍してから代入する
ステップ3
りんご13個とみかん2個で450円です。
りんご26個の値段はみかん5個と同じです。
みかんはいくらでしょうか?
ここは「りんご13個……うまく代入できない……」
となった所で「式全体を2倍して26個を作れば良いんだ!」と気づいてもらうことが目的です。
「式全体を2倍する」という動作は、そろえて消す解法でも登場する動作なので、説明してあげれば理解できると思います。
(もしもここでつまづく場合は、そろえて消す解法から復習します)
ステップ3.5 通常の数で〇倍して代入
ステップ3.5
りんご3個とみかん2個で1300円です。
りんご2個の値段はみかん3個と同じです。
みかんは何円ですか?
これはステップ3と同じ動作で解けます。
これが出来れば、まず第一段階としてはクリアになります。
ステップ4 〇倍より△円高い
りんご2個とみかん3個で450円です。
りんご1個の値段はみかん2個の値段より50円高いです。
みかん1個の値段は何円ですか?
これが代入の基本問題の中では最も難易度が高い問題になります。
これを解くためには、「カッコを外す」という動作(分配法則の逆)が必要になりますので、今回の記事では省略します。
詳しくはこちらの記事をご覧ください
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カッコを外す考え方意外と知らない分配法則【カッコを外す!】
小学生が意外と知らない計算の仕組みのひとつに「分配法則」があります。各塾のテキストではあまり時間をかけて教えられない一方で、5年生・6年生の問題の解法には頻繁に登場する考え方です。 消去算や割合の問題 ...
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まとめ
このように、なるべく言葉による説明を使わず、問題を解きながら自然と学べる形を整備してあげるという指導方法が良いと思っています。
新しい概念を学ぶ時こそ、家庭教師・個別指導の出番
今回の記事では「代入」を例に説明してきましたが、代入に限らず、新しい概念を学ぶ際の根本の考え方を理解する手助けをする際に家庭教師・個別指導は力を発揮すると思っています。
4年生・5年生という新しい考え方を学ぶ段階での家庭教師指導はとても有効です。
ただ問題の解法・技術を説明するだけであれば集団授業の焼き直しに過ぎません。
そうではなく、個別指導・家庭教師ならではの授業をしていきたいと考えています。
表面的な受験テクニックや解法暗記の勉強ではなく、本質的な考え方を理解させてあげたいとお考えのご家庭・お子様がいらっしゃいましたら、ぜひご相談ください。
お役に立てることがあるかと思います。