中学受験版悪魔の辞典というTwitterアカウントがあります。
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辞書パロディー形式で、中学受験用語の意味を解説するジョークアカウントです。
こちらは、私が趣味で情報発信していたアカウントになります。
こちらのつぶやき
【読解力】
長文読解は国語で、短文読解は算数で鍛えられるもの
について深掘りしていきます。
いつもの算数的な内容から少し離れ、読解力についての記事になります。
読解力と言うと、国語を想像する方が多いでしょう。
確かに”長文”読解は国語の領域です。
しかし”短文”読解の能力については、主に算数という教科で試されているのではないか?
そんな内容の記事になります。
記事の前半では、短文読解とは何か、どうして重要なのかを具体例を挙げて説明します。
後半では、短文読解力を上げるためにはどうすれば良いのかを解説します。
お時間がない方は後半だけでもぜひ読んでいただけると幸いです。
目次
短文読解のコツ・指導法
小学生がつまずきやすい、短文読解のコツを列挙していきます。
小学生が文章を読めなくなっている原因は、大人からすると思いもよらない初歩的なことが原因だったりします。
単純な原因を見逃したまま、闇雲に「ちゃんと読みなさい!」と叱ることが無いように、いくつかのポイントに分けて解説します。
①記号・指示語を対応させて読む
記号・指示語とは例えば「三角形ABC」や「図1」、「規則1」や「空欄ア」のようなものです。
例えば「三角形ABCは直角三角形です」という問題文があれば、三つの頂点A、B、Cを順に目で追って確認します。
「図1の立体は……」という問題文であれば、すぐに図1の方に視線を向けます。
問題文を読み終わってからではなく、文章を読んでいる途中で一旦視線を切って、記号・指示語の対象物を確認します。
え、そんな簡単な事? と思われたでしょうか。
みなさん当然にできている事だと思われたでしょうか?
これが出来ていないお子様は、意外と多くいらっしゃいます。
短文読解が苦手な子の多くは、特に記号・指示語が指す内容を確認することなくそのまま読み進めています。
記号・指示語が指す内容が分からなければ、文章の意味が理解できないことは当然ですよね。
念のため、小学生がどのように読んでしまっているのかを体験していただくための例題を用意しました。
問題
図1の四角形ABCDは1辺が24㎝の正方形です。M,Nはそれぞれ辺AB,ADの中点です。これについて次の問いに答えなさい。
(1)三角形CMNの面積は何㎠ですか?
はい、答えは出せますでしょうか?
……非常に厳しいですよね。なにせ、図が無いのですから。
問題文が何を言っているのか理解するのも一苦労です。
小学生が問題文を読んで「分からない!」となっている際の状況は、ちょうどこんな感じです。
「四角形ABCD」や「M,N」が何を指しているのかを確認せずに読むという事は、ちょうど読者の皆様が体験している今の状況と同じ状態という事です。
これでは問題は解けませんよね。
ですのでまず最初のトレーニングは「記号・指示語が登場した際は、そのモノを目で確認する」ように習慣づけることです。
指導者と一緒に問題を読みながら
「図1の四角形ABCD。はい!四角形ABCDってどれだ?……これだね。M,Nはそれぞれ……MとNってどれだ?……これだね。辺AB.はい辺ABってどれ? これだ。AD。はいADはどれだ?……これだね。の中点です。本当に真ん中になってる? なるほど。真ん中だね。」
このような感じで、初めは講師が誘導しながら、記号・指示語が登場した際にはすぐその対象物を目で確認するように習慣づけていきます。
②具体例を思い浮かべる
1~1000の整数のうち、2と3では割り切れるが5で割り切れない整数はいくつあるか?
さて、この問題も小学生がサラッと読んだだけではこんな感じに思えている事でしょう。
1~1000の整数のうち、2と3デハワリキレルガ5デハワリキレナイセイスウはいくつあるか?
途中の部分は、意味が頭に入らないまま、字面だけが目を滑っている状態です。
この状態の子には、音→意味 の変換をさせる必要があります。
とはいっても子供に「意味を考えて読んで!」と言っても伝わる訳がありません。
子供への指示は抽象的内容ではなく、具体的行動で指示しないと意味がありません。
その方法が、具体例を思い浮かべるです。
つまり「2と3では割り切れるってどういうこと?」という問いかけです。
これに対して「6とか12とか、そういうやつ」と答えられるようにトレーニングします。
続いて、2と3では割り切れるが5では割り切れない数ってどんなものだろう……あぁ6とか12とかで、30はダメなんだ。
と気づけるようになることが大切です!
「2と3で割り切れるが5では割り切れない数」という短文の意味を理解するという行為は、具体例を言えるという事とほぼ同じであるということです。
本当にやって欲しい行為は「意味を理解するように、しっかり読んで!」なのですが、そう伝えたところで小学生がその指示を実行することは難しいです。
その代わりに、「意味を理解する」と結果的に近い行為である「具体例が何になるか考えよう!」が出来るようにトレーニングすることで、自然と「意味を理解するようにしっかり読む」が出来るようになります。
具体例が思いつき、意味が理解できるようになった次の段階として、1000÷30=33あまり10 というような計算が始まるのですが、それはまた別の話です。
まずは具体例を想像してみよう! のような事は、普通の解説書には書いてませんよね。普通は計算式から始まります。
本当は式が発生する前に、文章理解のための試行錯誤があるのです。
解法暗記型の勉強と理解型の勉強の違いはここにあります。
その解法が成立する背景まで理解していることが大切です。
まとめると、「意味を理解する」をさせるために「具体例を想像できるように」トレーニングしよう! です。
③「~となります」は、本当か??と疑ってかかる
算数の問題文の中には「~~は~~となります。」のように断定口調で書かれていることがあります。
例えば
約数が6個ある整数の内、最小の整数は12です。これについて次の問いに答えなさい
(1)約数が6個ある整数を小さい順に並べるとき、2番目から5番目までの整数を書きなさい
この問題では、冒頭に「約数が6個ある整数で最小は12」という情報が示されています。
これに対して疑ってみることが有効です。
つまり「本当か? 本当に12が最小なのか???」という感じです。
疑うという事は、自然と1~11の約数の個数を調べることになるでしょう。
実際に調べてみて、約数が6個の数がない事を確認してやっと「確かにその通りだ。この文章は正しい」と納得できます。
もう一つ例を挙げましょう。
公立中高一貫校の適性検査の問題文から抜粋します。
~前半部分略~
先生「それでは、9の倍数はどのようにすれば見つけられるかな?」
Aさん「はい。知っています。それぞれの位の数を足します。その結果が9の倍数になっていれば、その数は9の倍数です。例えば567は5+6+7=18となり、18は9の倍数なので567も9の倍数です」
適性検査にありがちな、会話文形式の問題ですね。
このようにに書いてあったとします。
「ふうん。567は9の倍数なのか~」と納得してはいけません!
疑いましょう! もしかしたら文章が嘘を言っているかもしれません!
実際に567÷9を計算し、63で割り切れる事を確認して初めて疑いが晴れます。
疑うように指導しますが、本当は間違っているはずはありません。
それはそうです。入試問題の文章ですから、ウソが書いてあるなんてことは万に一つもありません。
それでも、逐一全て「本当か?」と疑ってかかることは、読解力と言う点で非常に効果があります。
ただ「~~となります」という文を無批判で受け入れるのではなく、一旦疑って自分で確認する。
この行為を通じて、文章の意味が分かりやすくなります。
「文章が言っていることが正しいか疑う。確かめる」ために行う行為は、結果的に「文章の意味を考える」と近しい行為になっています。
(前項の②で説明した内容と似ていますね)
小学生は「文の意味を考えろ!」と言われても何をやって良いのか分かりませんが、「文の内容を全て疑おう!」と言えば、自然と意味を考えてくれます。
そのような観点から、問題文に「~~は~~です」のような書き方があった場合は、片っ端から「本当か?」と疑うように指導しています。
④文章をまとまりに区切る。説明の言葉とメインの言葉
文章をまとまりに区切って読むという事が出来ないために、算数の問題が理解できていないことがあります。
言い換えると、全ての文章をフラットに読んでしまっているのです。
次の文章をご覧ください。
ある日、身長が高くて弟想いのお兄さんである太郎さんと、食いしん坊であり昨日はカレーを三杯食べた男の子である次郎さんは、二人で自転車に乗って近所の海浜公園に行き、海釣りを楽しみました。
重要ではない修飾語が多くて読みづらいですが、大人であれば意味を理解することはできると思います。
こちらの文章、大人が読めば次のように濃淡をつけて読むのではないでしょうか。
ある日、 身長が高くて弟想いのお兄さんである太郎さん と、 食いしん坊であり昨日はカレーを三杯食べた男の子である次郎さん は、 二人で自転車に乗って 近所の海浜公園 に 行き、 海釣りを楽しみました。
大人がこの文章を読んだ際の頭の中を文字で再現すると、このような感じだと思います。
いくつかの言葉をひとつのまとまりとして認識しているはずです。
「身長が高くて弟想いのお兄さんである太郎さん」のように、言葉の連続が長くはなっているが、指し示しているのは結局「太郎さん」だなと思いながら読んでいます。
文の重要度に濃淡をつけて読んでいるはずなのです。
「身長が高くて弟想いのお兄さんである」と「太郎さん」では重要度が異なります。前者は修飾しているだけの文ですが、後者はメインとなる言葉です。
これを全てフラットに読んでしまったらどうなるでしょうか。
この文章の術語(動詞)である「自転車に乗って」が登場するまでに、かなり距離があります。
「乗って」が登場する頃には、前半に登場した単語の洪水に飲まれて意味を見失っています。
「お兄さん?身長が高い? 太郎? カレー食べるの?え、次郎?自転車に乗る?えええ??」のように混乱している子をよく見かけます。
メインの言葉と説明の言葉、という関係が分かるようにならないと、「ひとまとまり」が大きくなった際に意味を見失ってしまいます。
算数の問題文で同様の状況というと、例えば
「整数Aは3でも4でも割り切れるが、5で割ると2余る整数であり、整数Bは4で割ると1余り、5で割ると3余る整数である。」のような文です。
整数Aについての説明が長くなっています。
※この項目だけで一本記事が作れるくらい長くなりますので、具体的トレーニングなどは後日別記事でご紹介します。
読解力がないのではなく、読解のテクニックを知らないだけ
「この子は読解力がないですね。よく読むように言ってください」
「国語力が弱いので算数が解けないですね」
三流の算数の講師が良く言う言葉です。
決して算数の問題文読解は国語力の低さが原因ではありません。
算数の問題が読めないのですから、算数指導の守備範囲です。
算数の問題を解けるようにする上で必要ならば、読解力のトレーニングは必須です。
これも含めて算数講師の仕事です。
技術不足で文章が読めないにも関わらず、「ちゃんと読みなさい!」と怒られ、やる気がないかのように扱われてしまうのは……避けてあげたいです。
今回の記事が、短文読解でお悩みの保護者様のお役に立てばと思います。
今回記事で紹介したのはごく一部です。
「文章の意味が分からない」の裏にはいくつかの原因があり、ひとつひとつトレーニングすれば理解できるようになる。という事がお伝えできていれば幸いです。