中学受験の世界には「面積図」という指導法があります。
面積ではないものを、模式的に面積の関係に当てはめることで問題を解こうという方法です。
掛け算の関係になっている3者が登場する問題で使われます。
速さ×時間=距離
食塩水の重さ×濃度=食塩の重さ
1人当たりの個数×人数=合計の個数
など、掛け算の関係になっているものなら何でも面積図に表すことが出来ます。
さて、こうした面積図を用いて学習することの是非を考えていきたいと思います。
先に結論から書きますと、面積図の多用は良くないと思っています。
目次
面積図が良くない理由①本質を隠している。難関校で通用しない
面積図は、濃度や速さの関係式を、その意味を理解することなく機械的に処理して解くために開発されたようなものです。
つまり濃度や速さの本質の理解とはあまり関係がありません。
難関校の入試問題は、各世代のトップレベルの才能を持った頭脳を選別するために作られています。
本質の理解を避けた図を使って解こうとする受験生が通用するほど甘くはありません。
御三家やそれに準じる難関校に合格する子で面積図を多用する子は見たことがありません。
どの子も皆、各問題の意味を理解して解いています。
面積図が良くない理由②算数が苦手な生徒はそもそも面積図に直す作業が難しい
難関校の入試で面積図が通用しなかったとしても、算数が苦手な子への指導では有効なのでは? という意見が考えられます。
しかしこれも面積図は避けるべきです。むしろ算数が苦手な子ほど面積図は使わない方が良いと思っています。
理由は簡単で、そもそも面積図を正しく書けるようにするのが大変だからです。
そもそも面積図とは「食塩水の重さ×濃度=食塩の重さ」のような式の、食塩水の重さと濃度を、図形の縦と横の長さに置き換え、食塩の重さを面積として模式的に表したものです。
この操作をする目的は何かというと、「食塩水の重さ×濃度=食塩の重さ」の関係性が理解できない子への補助としての役割です。
しかし実際に指導してみると分かるのですが、「食塩水の重さ×濃度=食塩の重さ」の関係性を本質から理解させる方がはるかに簡単です。
重さや濃度を面積の長さとして書き表す、というのは直感に反しているため子供たちはなかなか覚えてくれません。
苦手な子が楽に解けるようにと開発された面積図のはずが、その習得に労力を使っているようでは本末転倒です。
その時間とエネルギーは本質の理解に使った方がはるかに有益です。
面積図が良くない理由③指導の現場で既に時代遅れ
昔は面積図を用いた解法が主流だった時代があります。
算田自身が中学受験をした頃は様々な問題を面積図を用いて解いていました。
しかし今から10年ほど前、算田がSAPIXという塾で働くようになるころには、当時の先輩社員から「今はもうその問題で面積図は使わないよ」と言われる程、面積図は廃れていました。
指導方法が改良されたり、また入試問題のトレンドが変化したことにより、解法には流行り廃りがあります。
今や面積図を用いるべき問題は非常に少なくなっています。
少し古い世代の算数講師はよく面積図を使って指導している印象です。
中学受験を経験されたお父様お母様世代にとってはなじみ深いかもしれない「面積図」ですが、今指導の現場ではそれほど登場機会は多くありません。
出来るだけ直感的で単純な解法で
「速さの問題を面積に置き換えると簡単に解ける!」というとなんだかすごい魔法のように思えますが、完全にまやかしです。
本当に有効な解き方や図というのはもっと無骨で泥臭いものです。
例えば速さであれば、「時速」の意味が単位時間あたりに進む距離であるということを、子供向けに簡単な言葉で分からせることが出来るかどうかが腕の見せ所です。
プロの技は羽織の裏地のような見えにくい所に隠れています。地味に見える解き方の裏にはプロの技が詰まっています。