国語指導のおすすめ書籍紹介企画三冊目は
石原千秋「秘伝 中学入試 国語読解法」(新潮選書 1999年)です!
こつらは異色の国語指導法本です。
ほとんどの指導法本は塾講師か家庭教師が著者ですが、本書はそうではありません。
当時成城学園大学の国分学科教授をしていた著者が、息子さんの中学受験をきっかけに、ゼロから国語指導方法を確立していく過程を描いています。
本書の構成は前後半に分かれています。前半は著者の受験体験記ともいえる内容。後半は著者が長男の受験を通して確立させた国語指導法の解説です。
著者は「文学」の専門家だからこそ「中学受験国語」の特殊性がよりハッキリ見えたのだと思います。
国文学の専門家だからこそ、塾講師や家庭教師とは異なる視点で受験国語を捉えています。
例えばとある中学の入試問題を、「志の低い設問形式」だとして名指しで批判していたりします。(作中では実際の中学校名も書かれています)
後半は著者が編み出した国語指導法が公開されています。
様々あるのですが、一言で言えば「隠されたルール」を解き明かすということだと思います。
中学受験国語には、暗黙の認識ともいうべきルールが隠されています。
大学で学ぶ「文学」とは異なり、物語の筋や設問にルールがあり、そのルールを理解した上で取り組むべきだとしています。
指導法は、物語や評論の基本の型を学び、そして価値観の基本となっているキーワードを学ぶという順序で構成されています。
「国語」は道徳教育であると割り切って、想定される出題の型を覚えることが国語上達の鍵だとしています。
文学の専門家が、子供の教育のために本気で「国語」に取り組んだ集大成であり、一読の価値があります。
(著者は息子の指導のために上位数十校の過去3年分の入試に目を通して研究したそうです!)
算田の私見ですが、国語指導の上では「物語や評論の型を覚えることが必須」なのか「本当の読解力があれば知識はなくても答えを導き出せる」のかの2大流派があるように思えます。
後者の方が聞こえが良くて格好いいのですが、著者は前者の「物語や評論の型を覚える」方を重視しています。
それは文学の専門家だからこそ、「国語」独特のお約束が設問を支配していることがより鮮明に見え、ルールを教えずに息子を戦わせることはできないという判断だったのでしょう。
理想論とは無縁の、息子を受験に受からせるためのドライな研究の跡が垣間見えます。
よく「暗記は良くない。思考力が大事」と言われますが、野球のルールを知らないままに何回素振りをしても野球選手にはなれないでしょう。
(この点に関しては算数も同じです。解法の完全暗記は避けるべきですが、最低限必要な「型」の暗記は重要です)
大学教授という背景はあるにしろ、親が本気を出すとここまでの指導法を確立できるのかという面で驚きました。
受験生の保護者の方は是非読んでみてください。